2012年06月11日

2012年6月10日自転車事情 その2

「では、忘れ物を取りに、いってきます。」

壱岐に置いてきたもの。
それは何だったのだろう。

「この1年、ずっと満たされなかった思いを満たしに、
 乾きを潤しに、隙間を埋めに、行きます。」

ぽっかりと空いた空白をずっとずっと埋めたかった。
そして、前に進みたかった。

あの坂を一番で駆け上がった時、何が見えるのだろう。
見たことがない景色は、どれだけ想像しても、わからない。

壱岐サイクルフェスティバル
エキスパート U-39 30km

朝の目覚め、朝食、出走申告、ウォームアップ、補給、整列。
体調、機材、フィジカル、メンタル、位置取り、一切の問題がない。
いくばくかの緊張も走り出せば収まることはわかっているので無理に抑えることもない。

今年の30kmカテゴリは例年と異なりU19→U39→U49の並び順。
そのため昨年のように最前列からのスタートはできないので
最左列からのスタートが最も良い位置となる。

というのも30kmカテゴリは2車線あるうちの右車線からスタートするため
左側が大きく空いている左端から走り出せば早めに先頭へ出ることができ
スタート直後の無用なトラブルが避けられるのだ。

右隣に並ぶムームーさんと握手を交わす。
そして、チームの皆と前日から示し合わせていたことを再確認する。

・不必要なアタックをしない
・アタックを単独で追わない
・下りやコーナーは先頭に近い位置で入る

練習では力を出しきり、本番では無駄遣いしない。
自分が楽な展開ではなく、人が苦しむ展開を作る。
この1ヶ月、意識してきたことを具体的に実践する。

乾いた号砲とともにスタートを切る。
がら空きの左車線を利用しすぐに先頭付近まで上がり、U19数名の後ろに付く。
スタート直後はしばらくU19が活発だったが、しばらくするとおとなしくなる。

何度か先頭が回ってくるが40km/hそこそこで、上げもせず下げもせず淡々と交替する。
チームメイトが上がってくることが優先だ。
そうこうしているうちにチームメイトと、前に位置取りたい他チーム数名が上がってくる。
しかし、談笑したり声をかけあったりできる程々のペースだ。

途中、Tもばさんがペースを上げるため先頭に出るがそのまま後続が切れてしまう。
逃げを打つのが目的ではないので早めに連結しておきたい。
「40代出たよー、追わなくていいのー?」とか適当なことを集団にぶっこいて追ってもらう。

約5km地点、信号機を頂上にして急激に幅員が狭くなり、路面が荒れる箇所。
危なげなく先頭から5番目以内で下る。
その後の直角コーナーも無難にこなす。
50kmカテゴリで集団からこぼれ落ちた選手を追い抜く時も含めとにかく声を出す。
減速や右左折のたびに注意喚起をしていれば連鎖反応が起きてくれる。
今年は落車で遅れるなんてまっぴら御免だ。

10km地点、倉元建設の上り。
周りからはインナーにガシャガシャ落とす音が聞こえるがここはアウターで十分。
ダンシングを織り交ぜえっちらおっちら上る。
因みに30kmカテゴリでインナーを使うのは、猿岩、コンクリ坂、祥雲寺の3箇所。

前日、IIさんが「倉元建設がどこだか結局わからなかった」と言っていたのを思い出し
レース本番のこのタイミングで「このてっぺんがそうですよ」と話しかけ笑い合う。
何をやっているんだ我々は。

中盤辺りからU39、U49が2名くらい、前にせかせかと出ていくが、変わらずペースを維持。
後ろも結構伸びているし、わざわざ追って脚を使うのは得策ではない。
案の定湯ノ本ヘの下りですんなり詰まり元通り。
うむ、予定調和。

湯ノ本〜勝本辺りは海岸線のため風向きが安定しない。
ここで集団の力を使わないのはもったいない。
プラスジャージが複数名、侍、零、ブルーグラス、他単独ジャージで30名弱くらいだろうか。
緩い下りでコーナーが厳しくないポイントなので少し下がって様子を見る。
このレース中で唯一集団の10番目以降に下がった区間だった。
最初に元気だった何種かのジャージがいなくなっており、U19が一番少ないように見える。
母数の違いもあるが、今年はU19があまり積極的に動かない印象だ。

平山温泉の手前辺りから再び前に番手を上げ5番手くらいを維持。
意図的に前に2人程度先行する状態にしてみるが、逃げる様子もなく積極的に追う様子もない。
皆、脚を使いたくない空気が見える。

猿岩手前、コの字型の湾で2度直角コーナーが続く昨年のトラブルポイントだ。
すかさず番手を上げてしつこいくらいに減速を促す。
OK、ノートラブル。

残り10km、いざ猿岩。
Uターン手前でインナーに落としコーナーを利用して勢いをつける。
真っ向勝負、しましょうか。
うん、それ嘘。

俺とIIさんで無茶上げするでもなく淡々とハイペースを維持するだけ。
苦しめ、苦しめ、苦しめ。
息は弾むが周りの他チームメンバーのように荒げる程ではない。
脇山インターバルの5本目、朝練の桜井峠、国民休暇村、そのどれよりも楽だ。

上り切って緩い下り、脚を緩めてはいけない。
狭い危険な下りに入るまで先頭付近の番手はキープすべき。
後方から接触なのかオーバーランなのか、マシントラブルめいた音が聞こえた。
疲れた時のコーナリングこそ注意しなければならない。
もう一度集団に注意喚起を促して下る、下る。

結局20人くらいの集団は大してバラけずコンクリ坂へ。
路面の悪さもあり、上りでもタイヤが跳ね、集団だと意外と危ない。
ここでも声をかけあって接触を避けながら上る。
勢い良く上り始めた数人がタレてきたのを見て、頂上手前でどんどん前へ。

しかしこの先の下り、逃げても潰されるのはここ数年の展開で明白。
ならば逃げずに先頭で何をする。
スーパーリラックスタイムわはー。
余白を存分に生かした、水飲み&ストレッチ。
皆、脚を消耗しているのか、様子を見ているのか。
俺自身が脚を使う程ではないペースで引いていても前に出てこない。
おかげでプラス勢は前に陣取り安全に下れるんだけど。

下りきって大きく開ける平坦、今年もやはり向かい風。
ぴよさんとムームーさんが下った勢いで前に出る。
後ろを見れば変わらず20人くらいの集団。
ここで引くという選択肢は、ない。

ムームーさんに長くは引かないように声をかけすぐにローテを回す。
H田君が前に出る。
番手の俺は体格差を嫌って、下ハンドルを握り、小さく、小さくなる。
脚を緩める。
視線は合わさない。
表情は見る。
後ろを確認する。
誰も出ない。
50kmカテゴリの選手を避け集団が歪む。
やはり、誰も出ない。

残り1km、祥雲寺の上り。
素早くインナーへギアを落とし、H田君をかわしペースを上げながら先頭で上る。
non隊長がアタック気味に並走してくる。
何かのポイントだ!と頭の中で警鐘が鳴った。
かぶせるように上げ、先頭でUターンする。
後方で落車の音が響き渡った。
振り向かない。

Uターン後の上り返しも先頭で越える。
即座にアウターに入れ、踏み始める。
昨年のような躊躇は、ない。
K井さんの黄色いシューズが見える。
関係ない、踏めばいい。
踏み続けた。
いつしかシューズも見えなくなった。

左脇からIIさんが気合の雄叫びとともに猛然とかわしていき、最後の上り返しに突進する。
最高の燃料だった。
誰にもゴールは譲らない。
俺の傲慢さはとどまることを知らなかった。
カテゴリが違う選手だったとしても、誰かの背中を見ながらゴールしたくはなかった。

一声吠えて踏み直す。
奥から奥から何かが湧いてきた。
IIさんをかわした。
俺が、先頭だ。

サトミキさんの声援が聞こえた。
これが、SATOさんの勝利の女神の力か。
そんなことがふと頭をよぎった。
極限状態の人間の脳みそってすげーなー。

見知った赤いジャージや青いジャージが左右に見えた。
ガッツポーズと叫びが止まらなかった。
思うがままに吠えて、ゴールに飛び込んだ。

ゴールした後も叫びは、止められなかった。
湧き上がる衝動。
何という興奮。
次々と降ってくる仲間たちの祝福。
これは、蜜の味だ。
何物にも代え難い。

これが、勝利か。

最高の指導者と、最高の仲間たちと、馬鹿げた練習量を信じて手に入れたもの。
冷静に、泥臭く、クレバーに、懸命に、相反するものが同居した不思議な44分07秒。
気づいた時には、乾きも、隙間も、無くなっていた。

20120610c.jpg
posted by わか at 17:41| Comment(12) | TrackBack(0) | 自転車 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最高〜!
こんな文章能力、私には無いのでブログは写真だけにしとこう…(笑)

今後ともよろしくお願いいたします!
Posted by ぴより at 2012年06月11日 17:55
●ぴよさん
最初から書いていたらえらい長文になってしまいました。
「日々進化!」のテキストは色んな所で評判なので
ぜひ前々日旅行記から見たいのですが!(笑)

昨日まで、お疲れ様でした。
また、リスタートですね!
バンクやら英彦山やら、頑張りましょう!
Posted by わか@管理人 at 2012年06月11日 18:30
全ては予定通り!お見事でした!!
Posted by 部長。 at 2012年06月11日 22:20
●パンク部長。氏
勝つべくして勝つ時というのはこういうものなのかもしれません。
他競技ですが、何度も表彰台の真ん中に立っている人が当日の朝言っていました。
ありがとうございます!
Posted by わか@管理人 at 2012年06月11日 23:34
おめでとうございます!

わたしは後ろの方でがんばってましたが、
これを読んだら先頭集団の雰囲気がひしひし伝わってきました。
ほんと、自転車ってすばらしいですね・・。

これからも頑張りましょう。
Posted by シラおじまたはふじもと at 2012年06月11日 23:52
●シラおじさん
ありがとうございます!
少しでも空気が伝わったのなら良かったです。
これからむしむしとした梅雨が始まりますが、合間を縫って乗りたいですね。
また頑張って行きましょう!
Posted by わか@管理人 at 2012年06月12日 05:02
おめでとうございます。
「有言実行!」
「カッコイーねー」

でも

小さくはならない!
Posted by autodoa at 2012年06月12日 21:32
●autodoaさん
ありがとうございます!
口にした以上実現せねばというのは
その分プレッシャーもありましたが
想像以上にパワーをくれるようです。

やっぱり小さくはなってないですかね(笑)
Posted by わか@管理人 at 2012年06月13日 04:22
今晩は〜ご無沙汰しております。
遅くなりましたが、優勝おめでとうございます(^O^)/
なかなかご一緒する機会がありませんが、またグルメライドへ行きたいですね。
Posted by りっちパパ at 2012年06月14日 22:34
●りっちパパさん
お久しぶりです&ありがとうございます!
グルメライド、楽しくにぎやかに行きたいですね。
日田・秋月方面は私のナビに登録されていないので
風除け担当でがんばります(笑)
Posted by わか@管理人 at 2012年06月15日 00:15
1週間も遅くなりましたけど,
わかさん,本当におめでとうございます。

昨年の結果から今年の優勝へ…。なんだか他人事のようには思えなくて,自分のことのように気持ちがわかる気がしました。脱皮して新しく見えた世界のなかで,耳の奥に残っている自分の叫び声を聞き続けながら,これからも楽しんで乗り続けてくださいね。
Posted by るしふぁー at 2012年06月17日 14:35
●るしふぁーさん
ありがとうございます!

昨年の敗北の後るしふぁーさんのブログを何度も読み返し
必ず這い上がると自分自身に誓いました。
私の前には先駆者が居るんだ、というのが本当に力になりました。

ゴールの時に上げた雄叫びと、その後の光景は、
今も耳と目に残っているような錯覚を受けます。
もっと速く、もっと強く、もっと楽しく、自転車に乗り続けます。

改めて、ありがとうございました。
Posted by わか@管理人 at 2012年06月17日 18:09
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